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技術情報・コラム

機構設計者なら知っておきたい! 電子部品の発熱量計算と熱設計の基礎


第21回 [LTspice] トランジスタの選定と損失計算 (1)

 

 今回は、トランジスタ を用いた簡単な回路を考えてみます。

エミッタ接地回路

 第19回で NPNトランジスタ ベース 電流 が流入すると、コレクタ にはその何倍もの電流が流入することを説明しました。今回はその動作について詳しく見ていきます。図21.1は エミッタ 接地回路で、ベースには電流源 I1 で指定された電流が流入します。一方、コレクタには 10 Ω の 抵抗 R1 を介して、0 ~ 10 Vの範囲で 電圧 が鋸歯状に変化する電圧源 V1 が接続されています。


図21.1 エミッタ接地回路

 図21.1の回路におけるコレクタ電流をLTspiceで求めると、図21.2に示すようになります。この図から、コレクタ電流はコレクタ・エミッタ間電圧とともに上昇するものの、最終的には一定値に落ち着くことが分かります。また、このときに落ち着く値はベース電流によって異なっていることも分かります。


図21.2 コレクタ電流の変化

 この一定値は、ベース電流とエミッタ接地トランジスタの 電流増幅率 との積に当たります。したがって、NPNトランジスタのベースに電流が流入したときに、コレクタに流入させられる電流は「ベース電流 × 電流増幅率」以下ということになります。

 ベース電流と電流増幅率の積を上回る電流を流そうとすると、図21.2に示すようにコレクタの電位が上昇します。例えば、ベース電流が1 mA、電流増幅率が100であれば、コレクタに接続された回路には1 mA × 100 = 0.1 A以上の電流が流れないため、V1 = 10 Vのときのコレクタの電圧は10 V - 0.1 A × 10 Ω = 9 V となります。

トランジスタの選定

 ジュールの法則 が示すように電圧と電流の積は 損失 となります。したがって、スイッチング動作ではコレクタ電圧が低い状態、すなわちベース電流と電流増幅率の積がコレクタ電流よりも十分大きな値(飽和状態)となるように設計します。それでは、図21.1の回路に適したトランジスタを選定してみましょう。

 V1は0 ~ 10 Vに変化し、R1 = 10 Ω であるため、コレクタには最大で1 Aの電流が流れます。一般的なトランジスタの電流増幅率は100以上であるため、ここでは電流増幅率を100としてベース電流を求めることにすれば、その値は1 A /100 = 10 mA となります(設計によってはベース電流に2倍程度の余裕を持たせる場合もあります)。

 トランジスタを故障させずに動作させるためには、負荷が 絶対最大定格 を上回らないようにしなければなりません。また、第16回で触れたように、一般には ディレーティング として最大定格に対して電流・電圧・温度は80 % 以下、損失は50 % 以下となるようにします(これらはあくまでも一般的な値であり、要求される信頼性などによって異なる点に注意してください)。

 選定の際に満たさなくてはならないトランジスタの絶対最大定格は、コレクタ・エミッタ間電圧、コレクタ電流、損失、接合部温度 などです(エミッタ・ベース間電圧などもありますが、ここでは省略します)。このうち、損失PD [W] と接合温度Tj [℃] との間には、接合部と雰囲気間の熱抵抗 θja [℃/W], 周囲温度Ta [℃] を用いて以下の関係が成り立ちます。つまり、ヒートシンクなどによって、接合部と雰囲気間の熱抵抗を小さくできれば、接合温度の上限を超えずにより大きな損失までカバーできることになります。

 式(21.1)
 

 図21.1の回路で各項目を検討します。V1は 0 ~ 10 Vに変化するため、コレクタ・エミッタ間の電圧定格は、10 V / 0.8 = 12.5 V 以上が要求されます。また、前述のようにコレクタには最大で1 Aの電流が流れるため、コレクタ電流の定格は1 A / 0.8 = 1.25 A 以上が必要となります。

 また、図21.2からコレクタ電流が一定となるコレクタ・エミッタ間電圧は約0.3 Vです。余裕を見てこれを0.5 Vとすると、このときの損失は1 A × 0.5 V = 0.5 W となります。さらに鋸歯状の電圧変化であること、損失に関しては50 % 以上のディレーティングを考慮すると、許容損失は、0.5 W × 0.5 / 0.5 = 0.5 W となります。

 これらをまとめると、コレクタ・エミッタ間電圧の定格が12.5 V以上、コレクタ電流の定格が1.25 A以上、許容損失が0.5 W以上のトランジスタを選択すれば良いことがわかります。

 次回は、トランジスタのスイッチング損失について説明します。

 

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著者プロフィール
CrEAM(Cradle Engineers for Accelerating Manufacturing)

電子機器の熱問題をなくすために結成された3ピースユニット。
熱流体解析コンサルタントエンジニアとしての業務経験を生かし、
「熱設計・熱解析をもっと身近なものに。」を目標に活動中。

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