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技術情報・コラム

もっと知りたい! 熱流体解析の基礎

第6章 熱流体解析の手法


6.4.3 初期条件

 6.3.4節 解析領域 の端における 境界条件 について説明しました。これは空間に関する境界条件になりますが、非定常解析 の場合には、さらに時間に関する境界条件が必要となります。

 一方で、空間と時間の取り扱いには大きく異なる点があります。それは図6.40に示すように、空間的には基準点の前後が同じように扱えるのに対して、時間は基準点の前後、すなわち過去と未来が同等に扱えず、過去から未来への一方通行となる点です。


図6.40 空間と時間に関する取り扱いの違い

 そのため、時間に関する境界条件では、計算開始時の状態のみを条件として与えます(そもそも未来の状態はわかりません)。これを空間に対する境界条件と区別して、一般に 初期条件 といいます。例えば、「静穏な室温 25 ℃ の状態」から空調を動作させた計算を行う場合には、速度 0 m/s, 温度 25 ℃ という初期条件を与えることになります。

 前述のように、初期条件が必要となるのは非定常解析です。その例として、室温 20 ℃ の部屋に異なる温度のコーヒーを置いたときの様子を図6.41に示します。最初の温度が異なると、温度の下がり方が異なることがわかります。このように、初期の状態が異なれば、途中経過も異なったものになるため、非定常解析では初期条件の設定が必須となります。


図6.41 温度の時間変化と初期温度の関係

 しかしながら、最初の温度が異なったとしても、長い時間が経てばコーヒーの温度は室温である 20 ℃ まで下がります(ただし、温度が下がりきるまでに要する時間は異なります)。このように、十分長い時間が経過したあとの状態は、初期条件に関わらず等しくなるため、定常解析 においては初期条件の設定は必須ではありません。

 ここでは、温度を例にとって説明しましたが、速度などの他の変数についても同じことが成り立ちます。定常解析では、どのような初期条件であっても原理的には同じ結果になりますが、定常状態 により近い初期条件を設定することができれば、計算時間の短縮が期待できます。事前にある程度結果が予測できる場合にはその値を初期条件として設定しておくのもよいでしょう。

 もし、定常解析で初期条件を変えた場合に結果が異なってしまうようであれば、その計算は初期条件の影響が完全に抜けておらず、十分な定常状態に達していない可能性が考えられるため、計算状況を詳しく確認してみることをお勧めします。

< 6.4.2 時間の分割 6.5.1 陽解法と陰解法 >

 

上山 篤史
著者プロフィール
上山 篤史 | 1983年9月 兵庫県生まれ
大阪大学大学院 工学研究科 機械工学専攻 博士後期課程修了
博士(工学)
学生時代は流体・構造連成問題に対する計算手法の研究に従事。入社後は、ソフトウェアクレイドル技術部コンサルティングエンジニアとして、既存ユーザーの技術サポートやセミナー、トレーニング業務などを担当。執筆したコラムに「流体解析の基礎講座」がある。

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