Home > 技術情報・コラム > もっと知りたい! 熱流体解析の基礎 > 6.3.4 境界条件
方程式の解を一つに定めるためには、解を固定するための条件が必要となります。具体例として、以下の 常微分方程式 を考えます。
解は上式を積分することによって得られ、c を任意の定数として以下の形で表すことができます。
この定数 c のことを 積分定数 といいます。この時点では図6.29に示すように積分定数の値によって、複数の解が存在し得る状態となります。
図6.29 関数 f(x) の例
解を一つに定めるためには積分定数を決めなければなりませんが、このままでは決められないため、何らかの条件を与えて決定します。一般にその条件は定義域の端、すなわち境界で与えられることから、この条件のことを 境界条件 といいます。例えば、境界条件を「x = 0 において f(x) = 1」とすると c = 1 と求められ、解が一つに定められます。
熱流体解析 では、定義域が 解析領域 となることから、解析領域の境界面に境界条件を設定することになります。解析領域の境界面に接していない要素では、図6.30 (a) に示すように、要素 の値は隣接する要素の値を用いて計算されますが、境界面に接する要素では、図6.30 (b) に示すように隣接する要素の代わりに境界条件を用いて計算が行われます。
(a) 要素が他の要素に囲まれている場合
(b) 要素が解析領域の端にある場合
図6.30 要素の位置による違い
境界条件は変数ごとに設定します。例えば、流れ と 熱 の計算であれば、速度 と 圧力、温度 に対して条件を与えます。このときに用いられる代表的な設定方法は以下の3種類です。
境界面における変数の値を指定する条件です。図6.31に示すような『速度 3 m/s』や『圧力 0 Pa』、『温度 20 ℃』などの条件がこのタイプに該当します。
図6.31 ディリクレ境界条件の例
変数の勾配、すなわち変化率を与える条件です。『フリースリップ条件』や『断熱条件』などの条件がこのタイプに該当します。
例えば、フリースリップ条件は摩擦が作用しないという条件ですが、速度差がなければ摩擦は生じないため、一般には壁面の速度を隣接する要素の速度と等しくして計算が行われます。図6.32に示すように、これは速度の勾配を0とすることに等しく、ノイマン境界条件となります。
図6.32 ノイマン境界条件の例
2つの境界面の値を等しくするという条件です。計算対象が周期的な形状で、流れや温度の分布に周期性(繰り返し)が予想される場合に用いられます。
例えば、図6.33のような羽根形状を持つファンでは、それぞれの羽根の周りの流れはほぼ等しくなると予想されます。このような場合に、1枚分の形状を取り出して境界面に周期境界条件を設定すれば、全体の計算をしなくても1枚分の計算だけで全体の流れを予測できるため、計算負荷を抑えることが可能になります。ただし、羽根そのものの形状は周期的であっても、その周辺形状(ファンのケーシングなど)が周期的ではない場合には、その影響で周期的な流れにならないこともあるため、注意が必要です。
図6.33 周期境界条件の例
境界条件は計算結果に及ぼす影響が大きく、条件の設定次第では本来の状況と大きく異なる結果が得られてしまう場合があります。そのため、解析領域外の影響を適切に反映できる境界条件を選択することが重要です。
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第1章 熱流体解析とは
第2章 物質の性質
第3章 流れ
3.2 流れの表現
3.3 流体の性質
3.4 様々な流れ
3.5 流れの性質
第4章 伝熱
4.5 対流熱伝達
4.6 熱放射
第5章 物質拡散
5.3 物質拡散の要因
第6章 熱流体解析の手法
6.2 離散化
6.3 空間の取り扱い
6.4 時間の取り扱い
6.5 数値計算法