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解析事例・インタビュー

ヤマハ発動機株式会社 様
百分の一秒でも速くなる設計を探し出す、
世界最高峰レースMotoGPを支えるCFD活用

[後編] オートバイの代表的メーカーであるヤマハ発動機。同社は長年国内外のレースに参戦してきた実績をもつ。その中でも二輪レース最高峰のMotoGPで、同社はソフトウェアクレイドルの流体解析ツール「SCRYU/Tetra」を活用し続けてきた。ツールのロバスト性や操作のしやすさが車両開発現場のスピード感にマッチするとともに、可視化機能がレギュレーション交渉で大きな効果を発揮しているという。

写真1 2019年 MotoGPマシン「YZR-M1」と ライダー
マーベリック・ビニャーレス(左)、バレンティーノ・ロッシ(右)

ウィング禁止をどう切り抜けるか

 MotoGPのレギュレーションは毎年変更されるとともに、年によって流行もあるため、車体形状は毎年変化を続けてきた。例えば2000年代前半は最高速を最重要視したカウルで、直進時の空気抵抗をとくに低減する作り込みとなっていた。

 

 2015年頃はバイクの空力トレンドとして、フロントカウルウィングが流行したという。このウィングはダウンフォースを発生させるため、前輪が浮き上がる現象であるウィリーを抑えるのに効果を発揮する。また時速350キロメートル付近になるとカルマン渦の影響により振られが大きく出てくるが、これもフロントを押さえつけることで改善できる。ウィリー防止のためにはECU(エンジンコントロールユニット)制御も用いられるが、エンジン出力を落としたりして対処することから加速力が犠牲になってしまうため、ウィングの役割は重要だという。

 

 だがそのウィングが、2016年のレギュレーションでは安全性観点等の議論の結果、禁止になってしまった。当時のレギュレーションは、「車両流線に統合されていない突起物はボルテックスジェネレータを含めて禁止」というかなり厳しい文面だったという。

 

 しかもこの年から、ECUのソフトウェアプログラムが全社共通のものを使用するレギュレーションになった。その結果、「それまで使用していた自社製ソフトウェアによるきめ細かい制御ができなくなり、ウィリー抑制性能も低下してしまいました」と川勝氏は当時の状況を話す。

 

 「ウィングの対ウィリー効果は大きく、レギュレーションで廃止になったからといって簡単には引き下がれない状況でした。そこで何とか滑らかなボディの内部にダウンフォース効果のある空力デバイスを入れることが1年目の私の課題になりました」(川勝氏)。そこで初めてSCRYU/Tetraを使うことになり、嶋田氏に使い方を教わったという。

写真4 MotoGP車体の変遷 (左:2017年カウル内蔵タイプ/右:2018年サイドポッドタイプ)

レギュレーション交渉で可視化機能が説得力を発揮

 新たなレギュレーション文言の解釈のおいて、できうる最大限の空力効果を発揮する方法として、カウルの内側にウィング構造を内蔵するアイデアに思い当たり、設計を進めた。「ライダーは2015年のウィングによる空力効果の維持・向上を強く望んでおり、なんとしても実現してその期待に応えたかったのです」と川勝氏は話す(写真4)。

 

 カウリング形状のレギュレーション合致について、主催者による認可を得る必要があるが、認証作業において、形状の妥当性を主張するための説明に、SCRYU/Tetraのわかりやすいポスト機能が活躍したという。

図2 空力デバイス内蔵カウル(2018年)の表面流線
※クリックで拡大

 「説明の際には、可視化結果が非常に役に立ちます。合理性を持った説明により、主催者に対して妥当性を証明することができました」(川勝氏・図2)。最終的に2016年中には約200種類ものモデルを解析し、空力性能と操縦性のバランスが期待できそうな5種の仕様について実走テストを行い、最善の仕様を選択しレースへ投入した。 結果として2017年のカウリング仕様は2016年仕様に対し空力性能向上を達成できた。そればかりでなく、この検討プロセスを通じて、自身の空力開発に対する知見を高めることができたという。

新たな解析にも応用しやすい

 嶋田氏は社内でSCRYU/Tetraを使った流体解析の教育を行う。基本的にはマンツーマンで実施しており、半日の講習を5、6回程度行えば、やりたいことは一通りできるようになるという。教育を受ける人の前提知識は様々だ。川勝氏のように学生時に流体の研究に取り組み、知識が豊富な人もいれば、そうではない人もいる。それに応じて操作や流体力学、解析結果の判断の仕方などを教えるという。

 

 SCRYU/Tetraは知る中で、最も使いやすい流体解析ソフトウェアだと嶋田氏は話す。プリポストのインタフェースはどのソフトウェアよりも使いやすいと利用者にも好評で、メイドインジャパンの特徴がよく出ているソフトウェアではないかという。

 

 川勝氏も、「SCRYU/Tetraは新たな解析問題への応用がしやすい」と同様に使いやすさを指摘する。まず空力解析から取り組み、続いて電装部品の熱問題に取り組もうとした時に、どこをどう変更すれば新しい解析ができるかということが直感的に分かりやすいのだという。インタフェースが日本語であることも使いやすさの面では大きくプラスになると話す。

 

 レース車両の開発では特にスピード感が求められる。川勝氏は「はじめは操作にあまり慣れていなかったため、メッシュがきれいではありませんでした。ですがSCRYU/Tetraはロバスト性があり、しかも満足のいく精度があります。もし発散してしまうと原因探しが大変です。レース車両開発においては『夕方までにこの性能を出しておいて』と言われるような事もあるので、ロバスト性があり、十分に速く、実験とも一致するといったことはとても助かります」と語る。

 

 「ソフトウェアクレイドルのサポート体制については、困ったことや相談事があるとすぐ来てもらえ、対応していただいています」と嶋田氏は話す。同社はSCRYU/Tetraの後継版であるscFLOWへの移行も進めており、より一層の機能充実を期待しているという。

 

海外拠点にも展開

 ヤマハ発動機はモーターサイクル分野を中心に複数の海外開発拠点を持つ。それらの拠点でもSCRYU/Tetraを活用できないか検討中だという。現在は本社が流体解析を担っている。海外に導入する場合は、本社が解析して現地で結果を確認するか、現地で解析を行うかのどちらかになる。前者は現地にソフトウェアを導入するだけなのでハードルは低い。後者はソフトウェア、ハードウェアとともに、現地の教育者も必要になる。そのため導入効果について慎重に検討していくという。

 

 いずれにしろ将来的にはグローバルに流体解析を展開する必要があると嶋田氏は話す。SCRYU/Tetraは海外での使用でもソフトウェアクレイドルの現地法人とMSC Softwareのサポート網によるフォローが可能であり、ヤマハ発動機による更なる世界展開を全力でサポートしていく予定だ。

※scFLOW、およびSCRYU/Tetraは、日本における株式会社ソフトウェアクレイドルの登録商標です。
※その他、本インタビュー記事に記載されている会社名、製品・サービス名は、各社の商標または登録商標です。
※本インタビュー記事の内容は2018年9月現在のもので、予告なしに変更する場合があります。また、誤植または図、写真の誤りについて弊社は一切の責任を負いません。​

プロフィール





 

ヤマハ発動機株式会社
創立 1955年(昭和30年)
事業内容 ・ 二輪車事業
・ マリン事業
・ 特機事業
・ 産業用機械・ロボット事業など
代表者 代表取締役社長 日髙 祥博
本社所在地 静岡県磐田市
URL https://global.yamaha-motor.com/jp/

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