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解析事例・インタビュー

東京理科大学 工学部 建築学科 様
暖房から喫煙室まで
人の快適性をシミュレーションする

写真1 東京理科大学工学部 建築学科教授 博士(工学) 倉渕 隆 氏

[後編] 屋内の空気流れとその中にいる人の快適性に関しては、まだ解明されていないことも多い。東京理科大学の倉渕隆教授(写真1)は、建築物屋内の空気流れ全般のコンピュータシミュレーションに取り組んできた。その際に活用しているのが、熱流体シミュレーションソフトウェアのSCRYU/Tetra®である。

体に優しい浴室環境を検討

 このようにシミュレーションツールで高精度な快適性や投入エネルギーの検討ができることが分かってきたため、倉渕氏らはさらに詳細な問題への取り組みを進めた。人体に熱伝達率が一番影響するのは裸の時だ。特に風呂は高齢者の事故の多い場所でもある。家庭で起こる事故の最大の原因が溺死だという。寒くなると毛細血管が収縮して抵抗が増え、心臓に負担が掛かり血圧が上がる。そのまま熱い風呂に入ると心臓麻痺を起こすリスクが高まる。そのため、裸になっている環境を温かく保ち、ぬるめの湯に入るのが体に優しい入浴方法だと考えられる。にもかかわらず、とくに日本の家屋の構成では、浴室を伝統的に断熱境界の外側に置くという。そこで、快適に過ごせる浴室の暖房方式をシミュレーションによって検討した。

図4 各種暖房方式の省エネルギー性能と快適性の評価
※クリックで拡大

 暖房方式としては、従来から使われている対流式の天井吹き出し型、輻射式のハロゲンヒーター、そして新たに倉渕氏が提案する、伏流式の脇腹の高さから吹き出すタイプを検討した(図4)。
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 シミュレーションツールで計算したところ、浴室の洗い場にいる人に対しては、対流熱損失量よりも放射熱損失量の影響が支配的であることが分かった。これにより、放射環境を向上させる暖房方式が効果的だと考えられた。

 一般的には天井から温風を吹き出す対流式があるが、対流熱伝達が増えてしまう。また壁面上部に付けるハロゲンヒーターは上部のヒーターに面する箇所のみが温まり、局所的な不快感に繋がる。またどちらも足元の温度が特に低くなる。寒いと感じるのは放射による熱損失が大きいため、浴室内の壁の温度を上げるのがよいと考えられた。

 そこで、これらの欠点を補う浴室暖房として伏流式暖房を提案した。これは対流式の暖房の前に金属製の伏流板を設置したものだ。伏流板により、人体に風が直接当たるのを防ぐとともに、温まった金属板からの放射熱を受けることができる。これを浴室内で最も吸収係数の高い、人が立った時の脇腹高さの壁に配置した。

図5 暖房方式の違いによる人体の熱伝達特性の解析結果
※クリックで拡大

 熱損失量を一定にした場合の体表面温度分布などを解析した(図5)。その結果、投入2次エネルギーではカーボンヒーターおよび提案暖房が省エネで、部位別顕熱損失量のばらつきは、提案暖房が一番小さくなった。これにより提案暖房は、快適性と省エネ性を両立できることが分かった。

喫煙室周辺の空気流れをシミュレーション

 建築は機械などとは違い、運動する物体を伴う室内気流の研究はほとんど行われてこなかった。一方、屋内の空気の流れを考えた場合、人の動きやドアの開閉などが関係してくる場合もある。喫煙室やトイレなどは汚染物質が発生し、その遮断や制御が必要だ。だがこういったドアの開閉や人の動きによる空気流れは研究されていなかった。

写真2 東京理科大学工学部 建築学科
助教 博士(工学)李時桓 氏

 倉渕研究室 助教の李時桓氏(写真2)は喫煙室内外でのドア開閉を伴う空気の流れについての研究を試みている。まずSCRYU/Tetraが実験と一致するか確認したところ、瞬時の乱れ特性は再現できなかったものの、アンサンブル平均的な流れ特性は可視化映像と同様という結果が得られた。

 続いて、どういった行動を取った時にどの様に空気が漏れるのかを解析によって調べた。するとドアの開閉度と人の移動が換気量に関係することを確かめた。

 またドアがスイング式かスライド式か、また測定の仕方によってもかなり変わる。そこで実際にどうなるかを検討した。その結果、スイングよりスライド式の方が漏れる量がはるかに少なく、人体の移動による量もそれほど高くならないと分かった。これらの結果を元に、ドアの形やエアカーテンなどでどうなるか、飲食店ではどうなるかといったことの検討を進めていくという。
 

多様な機能展開に期待

 倉渕研究室では、それぞれのツールごとに得意な機能があるため、複数のツールを使い分けているという。その中でもソフトウェアクレイドルは「国内ベンダーであることもあり、素早く回答が返ってきます。学生の質問にも親身にアドバイスをしてくれ助かっています」(倉渕氏)とのことだ。

 倉渕氏は卒論着手前の学部の授業で、操作性に優れた構造格子系のツールを使い、学生が自由に問題を設定して解析する課題を出すそうだ。このツールでCFD解析の楽しさを知ってもらうのが主な目的だ。「自分のバイト先のもんじゃ焼き屋や授業を受けている教室などの気流を皆楽しんで解析しています。空気の流れが見え、しかもそれが動いているというのはとても魅力を感じるようです」(倉渕氏)。この後研究室に配属されると研究テーマに応じて本格的にSCRYU/Tetraなどでの解析に取り組んでいくそうだ。

 倉渕氏は「ソフトウェアクレイドルのSCRYU/Tetraは、人体周りの熱移動やムービングメッシュの課題への対応が優れています。今後も他のソフトウェアでは対応が難しいことに取り組んでくれれば」と期待を寄せる。人が歩くモデル、入浴、また神楽坂キャンパスの敷地内で夏に設置されるドライミストなど、取り組みたいテーマは多くあるという。「最近の研究では、どんどん新しい事象への取り組みが進んでいるため、それらを扱えるような様々な機能が用意されていればありがたいですね」(倉渕氏)ということだ。

 倉渕氏は「解析ツールは場合によっては実験を超える正確さを持ち、多角的な検討も行えるという大きなメリットがあります」という。「喫煙室の非定常問題などは実測が難しくなります。ですが実験できる状況下で比較して、ある程度精度が確保されているとみなすことができれば、さまざまなアイデアを解析ツール上で比較できるようになっていくと思います」(倉渕氏)。倉渕研究室ではSCRYU/Tetraは研究に欠かせないツールとして着実に使われているようだ。今後も幅広いテーマで住環境の快適性の追及への貢献が期待できそうだ。

※SCRYU/Tetraは、日本における株式会社ソフトウェアクレイドルの登録商標です。
※その他、本インタビュー記事に記載されている会社名、製品・サービス名は、各社の商標または登録商標です。
※本インタビュー記事の内容は2015年4月現在のもので、予告なしに変更する場合があります。また、誤植または図、写真の誤りについて弊社は一切の責任を負いません。

プロフィール

 

東京理科大学 工学部 建築学科
設立 1881年
学部設置 1962年
学科所在地 東京都葛飾区
学校種別 私立
URL http://www.tus.ac.jp/

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